歯を再植する」とは

どんなケースで歯の再植ができるのか

 一般的には保存不可能、すなわち抜歯しなければならないと考えられている歯でも、条件によっては残すことが出来ます。
 例えば、

  • 虫歯が深いケース
  • 歯根にヒビ(破折)が入っているケース
  • 歯根に穴(穿孔)があるケース

などです。
 上記のようなケースにおいては、一度歯を抜歯し、患部が歯ぐきより上にくる位置に浅く戻します。その後、隣の歯と3週間固定します。これが再植の大まかな治療の流れになります。

 再植することにより、歯根の長さが短くなるので、どうしても歯の動きが大きくなります。この場合は被せものや入れ歯などで隣の歯とつなげる(連結固定する)ことになります。
 また、上記の例とは別に、

  • 歯の根の先に病巣があり、通常の根の治療では治らず抜歯の適応であるケース

 においても、一度歯を抜歯し、口腔外にて根の先の治療を行った後、歯を元の位置に戻すことにより病巣を治すことが出来る場合があります(意図的再植術)。

 しかし、歯の再植は、抜歯時に歯根破折が生じる危険があるので、最後の治療手段であることに変わりありません。

歯に亀裂がみえる
一度抜歯。やはり折れている。
浅く戻して、固定する。
硬質レジン前装冠を装着

「歯の再植」症例

症例1 歯肉の下の虫歯(歯肉縁下う蝕)(1)

歯肉縁下カリエス

初診時66歳男性の方。ブリッジの支台歯である左下8に、エックス線画像から歯肉の下に虫歯(図の赤矢印)が認められました。矯正的に挺出を行いにくい位置で、歯肉・歯槽骨を削って歯肉下げる手術(歯冠長延長術)を行うにも困難な場所にありました。そこで、歯の再植を行い、左下6と連結固定すれば機能すると考えました。もう一度、固定性のブリッジを製作することもできましたが、清掃性を配慮して可撤性のブリッジ(コーヌス義歯)としました。6年経過しましたが、特に問題は起きていません。

症例2 歯肉の下の虫歯(歯肉縁下う蝕) (2)

 2016年9月初診、65歳男性。主訴として左下奥歯の治療を希望され来院。患者さんは歯の保存を希望していましたが、当初さすがに保存は不可能と思われました。まず、全体的に歯周病へのアプローチ(ブラッシング指導スケーリングルートプレーニング)と、他部位の虫歯の処置を行い、いよいよ左下をどうするか、という状態に至りました。患者さんには、保存困難で予後不良になり得ることもあることを伝え、ご理解していただいたうえで、12月に再植を試みました。
 左下6の近心根は、再植はせず、歯肉を下げる手術(歯冠長延長術)を行うにとどめました。左下6の遠心根は頰側根、舌側根と二股に分かれていましたので、頰側根は歯肉縁上歯質が確保できる位置に再植しました。左下7の近心根は保存不可能と判断して抜歯しましたが、同部に左下6遠心根の舌側根を移植するとともに、左下7の遠心根は再植しました。
 2017年3月、土台を装着し、仮歯で食事できるか等の反応をみたうえで、5月に連結冠を製作・装着しています。

症例3 歯の根の破折(歯根破折)(1)

 2012年4月初診、23歳の男性。左上1は10歳の時に転倒して折れた歯を戻したところ、その後およそ2年ごとに腫れを繰り返しているとのことでした。最近歯の動揺が大きくなったので来院したところ、エックス線画像から炎症性の歯根吸収らしき像がみられました。通常であれば抜歯し、両側の健全歯を削ってブリッジを装着するところですが、何とか左上1を保存したいと考えました。
 2012年5月に根尖側の抜歯を試みました。何とか愛護的に抜歯をすることができたので、歯肉より上に健康な歯質が得られる浅い位置で再植・固定しました。約1年間仮歯で経過観察を行いましたが、特に問題ありませんでしたので、2013年9月に硬質レジン前装冠を装着しています。歯根が短いため動揺が生じ、ピーナッツ等の固い食品を食べられないのが欠点ではありますが、患者さんは特に不満を訴えておりません。

症例4 歯の根の破折(歯根破折) (2)

 2015年3月初診、55歳女性の方です。左下4が咬むといたいとのことで来院されました。エックス線画像から歯根破折がみられました。右側は、右上7が欠損、右下6が舌側に転位しているため、右側では咬みにくく、どうしても左側咬みになってしまうと思われました。この結果、無髄歯である左下4の歯根破折が生じたのではないか、と考えられました。なお、この患者さんは最近歯科矯正を行っていて、前歯は綺麗に並んだものの、その代償として右下6が舌側に転位してしまったという経緯がありました。
 破折は根の先端から3分の1のところにまで達していましたが、何とか保存したいと考えて再植を行いました。なお、再植にあたっては、破折のある遠心面を90度回転して、頰側に位置づけました。さすがに単独での植立は無理なので、左下6のプラスチックの詰め物(コンポジットレジン)を除去し、左下4および6の連結冠を装着しました。単純に抜歯し、固定性のブリッジを製作すれば、健康な歯である左下3を削る必要が生じますが、今回再植することでこれを回避できました。
 患者さんには、噛みにくいけど右側でも噛むように、と指導しています。

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