虫歯(う蝕、caries)

虫歯とは

 虫歯(う蝕、caries)とは、虫歯を引き起こす細菌(う蝕病原細菌)が、口腔内の糖分を栄養源にしたときに排泄する酸によって、歯が溶けてしまう病気です。

虫歯が進行すると・・・

 虫歯が小さいうちは、特に痛みなど、患者さんの自覚症状はありません。虫歯が大きくなるにつれて、虫歯が歯の神経(歯髄)に近づいてくると冷たいものや甘いものなどがしみて、最初のうちは違和感程度だったものが、だんだんと歯の痛みになってきます。さらに虫歯が進行すると、冷たいものや甘いものの痛みがなかなか引かなくなったり、何もしなくてもズキンズキンと痛むようになってしまうことがあります。これは、虫歯が歯の神経(歯髄)に後戻りできない(不可逆な)炎症を引き起こしていることが考えられます。そうした場合、歯の神経(歯髄)をとらなくてはならない場合もあります。

虫歯の原因

 虫歯の主な原因は、前述の通り、歯の表面についた歯垢(プラーク)中の細菌が排泄する酸です。虫歯を予防するためには、

ことが大切になります。

虫歯(う蝕)
虫歯(う蝕)
エックス線画像(○印:虫歯)

歯の神経(歯髄)をとらない

 虫歯すなわちバイ菌の巣が大きくなり、歯の神経(歯髄)にバイ菌が侵入すると歯が痛くなります。虫歯が小さいうち、すなわち患者さんの自覚症状がないに時に治療すればほとんど問題が生じませんが、歯がしみるようになってから、あるいは歯が痛くなってからの場合は、従来は歯の神経をとるべきであると考えられていました。しかし今は極力とらないようにしています。理由は以下の2点です。

理由1 根の治療は、難しい

 神経をとった後の歯の中(根管)の治療を100%完璧に行えないからです。根管は、例えていうと大通りと路地裏の小道に分かれており、治療は主に前者が中心となります。路地裏は薬剤に頼っているのですが、そこにもしもバイ菌が残っていたら、将来根の先に病巣を作る可能性があります。

理由2 歯が折れることを防ぐ

 神経をとった後の歯はみずみずしさがなくなり、将来折れ易くなります(歯根破折)。神経のある歯での歯根破折は滅多にありませんが、神経のない歯の歯根破折は日常茶飯事です。

 以上の理由から、将来歯を失わないためには、歯の神経をとらないことが大切です。
 但し、刺激が加わらなくてもズキズキ痛むような歯で、明らかに手遅れの場合は神経をとらざるを得ません。そうでない場合は、経過をみた後、再び痛くなる可能性があることを患者さんに十分理解してもらった上で、神経を残すようにしています。
 特に最近は下に示します症例のように、明らかに虫歯が深く、神経が露出する可能性が高いと思われる場合は、浸潤麻酔を用いず、患者さんが我慢できるところまで、まず虫歯をとります。敢えて深いところの虫歯を残し、そこに薬剤を用います。薬剤の種類はタンニン・フッ化物合剤、MTAセメント、ドックベストセメント等色々あります。この状態で3ヵ月経過を観察します。薬剤は虫歯の無菌化、歯質の硬化および神経の退縮の効果を発揮します。つぎに、残しておいた虫歯を注意深く取り除きます。浸潤麻酔を用いる場合、患者さんが痛みを感じない分、つい深く削ってしまい、結果神経が出てしまうことがあります。それに対して、麻酔をしないで虫歯を取り除く場合は、患者さんの痛みを頼りに虫歯を取り除きますので、痛みがある場合はそこで一旦取り除くのをやめ、薬剤を用いて蓋をします。そのため、神経を保存できる可能性が格段に高くなります。この治療法は歯髄温存療法(AIPC)と呼ばれており、素晴らしい方法であると考えています。

「歯の神経を温存する治療」症例

歯の神経を保存する

 2017年4月に初診であった、33歳女性の方です。左上の歯がしみるとの主訴で来院されました。エックス線画像から、左上4,5,6に虫歯が認められました。特に、左上5の遠心(白矢印 右から2番目)は、歯の神経(歯髄)に近接していました。このような虫歯を麻酔をして除去すると、患者さんの知覚がないために除去しすぎて歯の神経まで達してしまう危険があります。そこで、麻酔をせずに患者さんが我慢できるところまで一度虫歯を除去します(スライド中段左)。
 つぎに、タンニン・フッ化物合剤を貼付け、歯の神経を温存(歯髄温存療法・非侵襲性歯髄覆罩・AIPC)を図ります。このケースでは接着性セメントを用いて緊密に閉鎖しました(スライド中段右)。
 この状態で3ヵ月経過を観察しました。タンニン・フッ化物合剤は、虫歯を引き起こす細菌に感染した歯質の無菌化、歯質の硬化および歯の神経の退縮、といった効果が期待できます。3ヵ月経過後、再度残存している虫歯を除去しました(スライド下段左)。
 その後、通常どおり型を取って詰め物(インレー)を装着しています。
 歯の神経をとった歯は、将来、細菌の取り残しや侵入によって歯の根の先に病巣が生じる危険があります。加えて歯質の弱体化し歯の根が折れやすくなってしまいます。これらを予防するためには、なるべく歯の神経の保存に努めるべきでしょう。

さらに詳しくご覧になりたい方は、こちらをどうぞ。
(歯科医師用のサイトのため、専門用語を使っています。)