バネを使った入れ歯(クラスプ義歯)

クラスプ義歯とは

 残っている歯に維持を求める装置(支台装置)のなかで、金具のバネ(クラスプ)はもっとも歴史が古く、臨床における使用頻度が最も高い装置です。このページでは、バネを使った入れ歯を「クラスプ義歯」と呼ぶことにします。

 当院では、歯が一本失われた場合から、多数の歯が失われた場合まで、様々なクラスプ義歯を製作しています。

クラスプ義歯の特徴

 クラスプ義歯は構造が単純で、調節も行いやすいので歯を失ったときの治療方針として第1の選択肢となります。しかし、クラスプ(金具のバネ)の部分が他人から見えてしまい、見た目(審美性)に劣ることが多くなってしまいます。

 クラスプ義歯とは異なり、金属のバネが見えない支台装置を用いた入れ歯もあります。

アタッチメント義歯

コーヌス義歯

クラスプをかけるための準備

 歯が天然歯(何も削られていない状態)のときは、歯の頭の部分をそのまま利用できます。しかし、歯に何らかのつめものや被せ物が装着されている場合は、クラスプ(バネ)を用いるのに適した形を与える必要があります。すなわち、最初に入れ歯の金具の設計を決定したうえで、それに合わせたつめものや被せ物(冠)をあらかじめ製作し、装着しなければなりません。

症例1 クラスプ義歯(1)

クラッスプ義歯

1999年3月初診、54歳女性の方です。「歯がグラグラする、義歯を装着したい」ということで来院されました。歯周病の治療を行いながら、まず残すことのできない歯(上顎左右5)を抜歯し、上顎に残っている歯を一時的につなげて固定しました。同年8月、上顎に一時的な入れ歯(暫間義歯)を装着してもらいました。続いて、右下奥から2番めの歯(右下6)は根が2股に分かれているのでそこで2つに分けた上で、同年12月に下顎にも暫間義歯を装着してもらいました。

クラスプ義歯

2001年1月、初診終了時の状態。上下に金属床の部分入れ歯を装着しました。上顎前歯はメタルボンド冠で連結固定してある。左下の臼歯が失われているため、どうしても右側の上下の残っている歯が咬み合うところで咀嚼する可能性が高いため、予後が心配である。

クラスプ義歯

初診終了16年後の義歯装着の状態。入れ歯の金具と土台の歯との適合は16年の月日が流れたとは思えないぐらいに良い状態である。特に上顎の入れ歯は、下顎の残っている歯と咬んでいないために、土手(顎堤)の吸収が生じなかったと考える。

 スライド下段に示す、初診終了約20年後の20年11月の状態であるが、右下2の動揺が大きい以外は、大変良好である。

症例2 クラスプ義歯(2)

クラスプ義歯

初診は2002年9月、49歳女性。上顎前歯のさし歯が外れたが主訴。保存不可能な右下3は抜歯した。

クラスプ義歯

2004年3月、初診から1年6ヵ月を費やし治療が終了した。 デンタルX線写真から右上6、左上1、2には歯を支える骨が殆どみられない。しかし、一番心配なのは、残っている歯同士でのかみ合わせがある左側の小臼歯部の予後である。

クラスプ義歯

金属床のクラスプ義歯を装着した状態。この当時は一塊で作り上げる金属床をよく用いたが、現在は適合・精度の観点から、連結装置と支台装置(クラスプ)は別々に製作している。

クラスプ義歯

2017年11月、初診から15年2ヵ月、初診終了から13年8ヵ月後の状態。この間、初診時に抜歯した保存不可能な右下3を除き、11年に右上6、および17年に左下6の遠心根を失っただけであることから、経過は良好と言える。しかし、12年8月の右上5のデンタルX線写真からみてとれるように、歯を支える骨がほとんど存在しない状態で、17年まで保っているということは、言い換えれば右側ではほとんど咀嚼していないことになる。左上1、2の予後が心配であったが、特に問題は生じていない。今後も、左側の咬合支持歯である左上3、4および左下4あたりが咀嚼の中心となることから、将来問題が生じる可能性が高い。

クラスプ義歯

義歯装着時の状態。初診終了から約14年経っても、これほど鳩クラスプの適合に変化がみられない症例はほとんど経験していない。このことは、咬合力が弱いことを意味するのか?もしくは、入れ歯ではまったく咀嚼せず、左側に残っている歯同士で咬み合うところのみで咀嚼しているのかもしれない。