インプラント

インプラントとは

 「インプラント」とは、歯を失った部分の骨に、「インプラント」と呼ばれる人工の歯を植える(埋入する)方法です。インプラントを植える顎の骨の量や形、骨に対する手術に関連するような全身状態などの条件が整えば、行うことができます。

 インプラントは、顎の骨に植わる部分の「インプラント体」、歯の頭の部分の「上部構造」、そっれら2つをつなぐ「アバットメント」から構成されています。

インプラントが必要なケース

 それでは、インプラントは一体どんな場合に必要となるのでしょうか。

1.上顎あるいは下顎において、左右側的に片側にしか歯がない場合

 部分入れ歯(義歯)が安定するためには、左右両側に少なくとも1本以上の歯があるのが理想的です。片側だけに複数本存在しても、反対側になければそちらで満足に咬むことはあまり期待できません。このような場合、片側に複数ある歯の中から、最も機能していない歯を一度抜歯し、反対側に移植できれば部分入れ歯(義歯)の安定は格段に向上します。移植可能な歯がない場合には、歯のない側にインプラントを埋入することも検討します。

2.上顎の口蓋を覆うことによる異物感あるいは発音障害が著しく強い場合

 歯の欠損部へ移植もしくはインプラントを用いることで、左右どちらか片側だけの範囲の部分入れ歯(義歯)を設計できることがあります。また、総入れ歯(義歯)の場合はうわあご(口蓋)を覆わない設計が可能になる場合があります。

3.下顎総義歯の症例で、顎堤が著しく吸収している場合

 下顎の土手(顎堤)の吸収が著しい場合、安定した下顎の総入れ歯(義歯)を製作するのは非常に難しくなることが多いです。その場合、移植した歯もしくはインプラントを入れ歯の安定に使用できれば、遥かに入れ歯の動きを抑制させることができます。

 以上をまとめると、当院では歯が多数失われた場合、基本的には入れ歯(義歯)を第一選択としていますが、歯の移植もしくはインプラントを用いるメリットが大きいと思われるときには、適応条件が満たされればオプションとして取り入れようと考えています。

インプラント埋入前の状態
インプラント体が埋入された状態
インプラントにアバットメントが装着された状態
インプラントに上部構造が装着された状態

 

症例1.インプラント長期経過例

 1986年1月初診、31歳男性。当時私は、東京歯科大学病院に勤務しており、その時、担当した患者さん。主訴は右下67の欠損補綴を希望。大学には83年、日本で初めてブローネマルク・インプラントが導入された。歯科医師になって6年目の駆け出しの私としては、ぜひインプラントを用いた治療を行ってみたく、うずうずしていた。丁度同級生にインプラントに詳しい先生がいたので、助手についてもらい、ITIインプラントを植立した。

 当時のインプラントはネック部が細く、大きな咬合力には耐えられないと判断し、咬合面をできるだけ小さく作製した。今のインプラントの太さならばもう少し大きく作製できる。しかし小さく作製したことがインプラントに加わる力の負担軽減に繋がり、インプラントの長期保存に貢献した一つの理由なのかもしれない。

 1997年まで、大学病院で定期健診を行っていた。その後暫く拝見することができなかったが、2008年以降、私の診療室まで何時間もかけて通院してくださるようになった。右下のインプラントは30年経過しても順調だが、この理由は2つあると考えている。まず、先にも述べたが咬合面の面積を小さく作ったことが挙げられる。つぎに、インプラントでは噛んだ時の食感が少ないことから、上下顎に歯のある左側で主に咀嚼していたからと考えている。しかし患者さんは、右側でも咬んでいるとおっしゃっているし、左側の歯に特に問題が生じていないことから、確かに両側で咬んでいるのかもしれない。

症例2.下顎総義歯にインプラント(計4症例)

 上顎の総入れ歯(総義歯)は顎堤がある程度あれば入れ歯(義歯)で十分対応できることが多いのですが、さらに補綴装置の安定感・装着感の改善を求めてインプラントを植立することも稀にあります。しかし、将来インプラントに感染が生じた場合は、かえって土手(顎堤)の吸収を助長してしまいます。特に長いインプラントを用いる場合は、顎堤の吸収が大きく、次に総義歯を製作するときに難症例に陥る危険性があるのです。以上の理由から、基本的には上顎にインプラントを用いる必要はないと考えています。どうしてもうわあご(口蓋)部の違和感、あるいは発音障害の強い人は、将来危険があることを良く承知したうえで、最小限のインプラントを用いるべきだと考えます。
 下顎の総義歯も、上顎と考え方は概ね同じです。しかし、下顎の顎堤のない症例は、上顎に比較して難症例であることが多く、安定した総義歯を製作できる歯科医師は少ないと思われます。私も自信がありません。そこで、インプラントを利用できれば遥かに安定した義歯を製作できます。ただし、上顎と同じで、感染が生じてインプラントを撤去するような事態が生じた場合、その後に製作する義歯がさらに難症例になってしまうということは肝に銘じています。
 症例1は、2002年に下顎に6本のインプラントを埋入した症例です。当時は、6本がスタンダードでした。これは、特に欧米人が固定性の補綴物を望むことが影響していると思われます。なお今現在、18年経過していますが、特にインプラントに問題は生じていません。しかし、上顎の顎堤の吸収量が上下顎総義歯の場合と比較して多いような気がします。
 その後、可撤性の義歯を用いる場合は少ない本数のインプラントでも術後経過が良いことが分かってきました。そこで私も、可撤性の義歯にさせていただき、最小限2本のインプラントを用いるようになりました(症例2~4)。ただしこの場合も、なるべく短いインプラントを用いて、もし感染が生じた場合、顎堤の吸収が最小限の被害ですむように心掛けています。
 なお、症例4の右下のインプラント(15年装着)は20年10月に脱落してしまいました。

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